怪奇蜘蛛男(『仮面ライダー』第1話)

あらすじ

城北大学生化学研究室に所属する秀才と称される科学者で、一流のオートバイレーサーでもある本郷猛は、オートバイの練習中に、謎の不気味な女ライダーの集団に襲われ、気を失った。

目が覚めると、彼は謎の科学者とおぼしき集団によって手術台に身体を拘束されていた。そこで彼を拉致した集団が「ショッカー」を名乗る世界征服を目指す秘密結社であること、そして彼らが自分の肉体に改造手術を施し、常軌を逸した身体能力を持つ改造人間とされてしまった事実を知る。

彼らは最後に猛の脳改造を行い、名実ともにショッカーに服従する改造人間として仕上げようとするが、その場に現れた恩師・緑川博士の手引きにより、ショッカーのアジトから脱出を果たした。

裏切り者の二人を捕らえるべく、ショッカーの怪人・蜘蛛男は、緑川の娘、ルリ子の誘拐を画策する。

解説

オープニングの主題歌は主演である藤岡弘が自ら歌っています。さすがに声が若い。そして体格もすらっとしていて、現在の非常にごつい体格の彼とは別人のよう。でも、やはり面影はありますね。

知能指数600

ショッカー首領によると本郷猛は知能指数が600ということらしい。

知能指数にはいくつかの流派があり、取り得る数値の上限下限も微妙に異なりますが、どの流派でも、だいたい100が平均となるようにできています。そして、いわゆる天才と称されるような人物であっても、知能指数200を超えるような人間はほとんどいません。つまり、本郷猛の「知能指数600」というのは、現実的にあり得ない数字というレベルすら超越し、フィクションであるとしてもフカしすぎて現実感ゼロになっている感ありです。

他のフィクション作品で例に挙げれば、マンガ「金田一少年の事件簿」の主人公・金田一ハジメの知能指数は、「驚異的な数値」とされてますが、それでもその値はたかだか180です。

また、リアルの世界で人類史上最高のIQの持ち主とされているのは、現代コンピューターの父・フォン=ノイマン博士で、そのIQは300と言われています。これがどの位の天才かというと

  • 8桁の掛算を暗算で行う(しかも当時彼が開発したコンピューターよりも早い)
  • 8歳で微積分をマスター
  • 44巻にも及ぶ歴史書を一字一句違わず暗記
  • 7カ国語をそれぞれネイティブ以上に流暢に話す

という、まさに「超人」です。

300でこのレベルなのですから、本郷猛の600という数字がいかに突拍子のないものかわかります。「本郷猛の身長は20メートル」とか言っているのとあまり変わらないと言えます。おそらくは知能指数というものをよく理解しないまま、適当にものすごい数字をつけてみただけだと想像しますが…

ショッカーの基地を脱出した本郷猛が、改造され、普通の人間ではなくなってしまった自分の肉体を嘆き、「第三者が見れば、俺はまるで遠い宇宙の彼方から来た遊星人と思うかもしれない」と独白するシーンがありますが、正直なところ知能指数600を誇る彼は、改造手術を受けずとも十分に「遠い宇宙の彼方から来た遊星人」でしょう。実際、フォン=ノイマンは「火星人」とあだ名されていたそうですよ(笑)。

ダークトーン

さて、記念すべきこの第1話から、2号ライダー登場までのいわゆる「旧1号編」は、とにかく全体として暗いトーンに彩られています。

なんと言ってもショッカーが実に不気味です。

あなたはショッカーというと何を思い浮かべるでしょうか。おそらく、多くの人が「イーッ!」と奇声を発する覆面の戦闘員の姿を思い浮かべそうです。

しかし、この頃のショッカーの戦闘員はそんなコミカルな奇声を発することは無く、さらには覆面ではなく素顔にペイントを施しています。このペイントがまた絶妙な色使いで、世界征服を企む組織の狂気をうまく演出しています。こんな奴らが無言、無表情でライダーに対して向かってくるのは、カメラアングルのうまさもあって不気味なことこの上ありません。

そしてその不気味さをさらに加速するのが特撮。細かいカットをつないでつないで、蜘蛛男や戦闘員の不気味な動きを映像で見せている。

この頃は特撮技術も現在に比べると遙かに未熟ですし、この番組自体かなりの低予算で作られていたということで、あまり派手な特撮はできなかった事情がありますが、それでも創意工夫でこの映像を作り上げたスタッフには脱帽ものです。

変身

さて、昭和の仮面ライダーの華と言えばなんと言っても変身ポーズ。平成の仮面ライダー達はアイテムを起動してサクッと変身してしまいますが、昭和の仮面ライダー達は変身シーンも大きな見せ場の一つ…なのですが…

この頃の1号ライダーには変身ポーズはありません。特定のポーズを取って変身するのではなく、ベルトの風車に風圧を与え、風力をエネルギーに変換することで変身するというシステムです。

なので、専用マシンの「サイクロン号」に乗って加速したり、高いところから飛び降りることでベルトに風を当てて変身することになります。なんとも華の無い変身ではありますが、この地味さも「旧1号編」のダークなトーンを形成するのに一役買っていると想います。

この「旧1号編」は、その後継続する「2号編」はもとより、それ以降のシリーズとも一線を画す独特の雰囲気が、現在もディープなファンに評価されています。「仮面ライダー」という番組が当初目指していた「本格怪奇アクション」をよく体現していたと言えるでしょう。

脚本:伊上勝
監督:竹本弘一

第2話「恐怖蝙蝠男
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