あらすじ
志郎は街中でデストロンの怪人・カメレオンの放った銃弾を頭部に被弾した。何故か命は残っているものの、力のコントロールができず、ドアノブを掴んだだけで破壊してしまい、何気なく肩に手を触れれば服の袖を引きちぎってしまう。これはデストロンが開発した弾丸兵器「バタル弾」によるものだった。バタル弾にはさらに、志郎がV3に変身すると、そのエネルギーを吸い取って放出し、死に至らしめる機能まで備えられていた。
志郎にバタル弾を撃ち込む仕込みを入れたところで、デストロンは田舎から家出してきた少女を籠絡して組織に取り込み、路上をさまよう志郎にわざとぶつからせて暴行の濡れ衣を着せた。集まる警官を制止しようとするも、力の加減ができない志郎は警官を吹っ飛ばし、さらに両手にかけられた手錠も無意識に引きちぎってしまう。志郎は公務執行妨害で逮捕され、デストロンの息がかかった刑務所に収監されてしまった。
独房に現れたヨロイ元帥とカメレオンを前に変身して挑みかかかるV3だったが、バタル弾の影響によって瞬く間にエネルギー枯渇を起こし、気を失ってしまう。
再び独房に収監されたところを、ライダーマンによって助け出された志郎だったが、結城によると、バタル弾を摘出して志郎の身体を修復するには、デストロンのアジトにある設備を使うしかないという。二人は家出少女の後を尾行してデストロンのアジトに潜入。罠にはまって密室に閉じ込められ、三人揃って圧死させられる危機だったが、志郎が変身して脱出。しかし、バタル弾にさらにエネルギーを吸われ、もはや志郎は瀕死の状態だった。
アジトの手術室で、志郎が立ったまま入り口を塞ぎながら結城が執刀するという無謀な状況で実施された手術は奇跡的に成功し、三人はアジトを脱出。屋外で追いすがってきたカメレオンとV3の闘いになるが、V3錐揉みキックを食らったカメレオンはその場を離脱。次なる邂逅を予告して姿を消した。
解説
脚本の長石多可男は本職は監督です。V3の当時はまだ助監督の立場でしたが、後にスーパー戦隊シリーズや平成仮面ライダーシリーズ第1期で大きな足跡を残している監督です。残念ながら既に鬼籍に入られています。彼はやはり初期の本郷猛のような影のある仮面ライダー像を理想としているようで、2号編になってからの『仮面ライダー』はあまり好きではないと語っています。本作の脚本ではそんな長石氏らしく、旧1号編の本郷猛を彷彿とさせるような、「力のコントロールができなくなった改造人間の苦しみ」をいたるところで描いていますね。
心配して探しに来た藤兵衛が自分に触れるのを制止し、「どうしていいかわからないんです!」と崩れ落ちるシーンだったり、変身するだけでバタル弾にエネルギーを奪われる状況で、危機を脱するためにライダーマンの制止も聞かず変身を強行するシーンだったり、戦闘員達がなんとか侵入しようとする手術室のドアを押さえながら、立ったまま結城によるバタル弾摘出手術を受けるシーンだったり、これでもかというくらいに見所を詰め込まれた『仮面ライダーV3』でも屈指の名エピソードと言って良いと思います。
家出娘がデストロンに取り込まれる経緯とか、若者がヤクザに取り込まれる経緯そのまんまだなぁ、と見てて思いました。今の世の中の仕組みでは生きにくい若者が、その仕組みの枠から外れてでも生きようとし、そういった若者の心のすきにつけ込んで組織に取り込む。結局今回の家出娘はカメレオンに捨て石にされることで目を覚ますのですが、彼女が志郎に向かって吐き捨てる台詞はまさに厭世観にまみれた若者そのものですね。ここは女じゃ無くて男を使った方が雰囲気としては自然だったんじゃないかなぁ。
脚本:長石多可男
監督:内田一作